第67期王位戦七番勝負第6局
2026年09月13日
藤井聡太王位(七冠)が3勝2敗と王手をかけて迎えた、伊藤園お~いお茶杯第67期王位戦七番勝負第6局が9月8、9日の2日間に渡って行われました。

舞台は数々の歴史的名勝負を見守ってきた神奈川県秦野市の老舗旅館「元湯 陣屋」です。
陣屋はカレーと陣屋事件が有名です。
面白いことに、伊藤匠二冠は2日に王座戦第1局が陣屋での対局で、一週間も間を置かずに再び陣屋での対局に挑みます。
藤井聡太王位がここで防衛を決めるのか、カド番を凌いだ挑戦者の伊藤匠二冠が最終第7局へ引き戻すのか。全国の将棋ファンが固唾をのんで見守るなか、先手番の伊藤匠二冠が黙想ののち▲2六歩と突き出すと、後手の藤井聡太王位もお茶を口にして静かに△8四歩と応じました。本シリーズの先手伊藤匠二冠の対局では相掛かりが本命視されていましたが、伊藤匠二冠は7手目に▲7七角と上がり、戦型は角換わりへと進みました。
序盤から激しい駆け引きが展開されました。両者ともに銀を前面へと繰り出す「相早繰り銀」の布陣を選択します。伊藤匠二冠が27手目に▲3五歩と先に仕掛けると、藤井聡太王位もすぐさま△8六歩からの継ぎ歩で反撃に出ました。
伊藤匠二冠は▲3四歩と拠点を打ち、藤井聡太王位は△2二銀と引いて陣形を整えます。伊藤匠二冠が43手目に▲4六角と好位置に据えると、藤井聡太王位も82分の長考の末、44手目に△4五角と打ち返して対抗しました。
対局が進行するにつれ、雨脚が強まる長崎ならぬ秦野の地で、盤上も不穏な気配を帯びていきます。長考の末55手目に伊藤匠二冠が▲6六銀と進出すると、藤井聡太王位は56手目に△2四歩と踏み込み、伊藤匠二冠が▲7五銀と歩を取った局面で、藤井聡太王位が59手目▲7六歩打のあと、60手目を封じ手として1日目を終えました。1日目の消費時間は先手の伊藤匠二冠が3時間0分、後手の藤井聡太王位が4時間24分となりました。
2日目、藤井聡太王位の封じ手△4五銀に対し、伊藤匠二冠は101分の大長考の末に▲4五同銀と応じ、▲2四角の王手から激しい戦いへ突入しました。
両者の読みが深く交錯し、勝負の明暗を分ける決定的局面が訪れたのは70手目でした。伊藤匠二冠が69手目に▲7四銀打と打ち込み、7五の銀を活用しようとした局面です。ここで藤井聡太王位が放った手が、控室のプロ棋士たちを「ひえ~!」と驚愕させました。
70手目、△4六歩。
先手からの銀の攻めを自陣の危機として受け止めるのではなく、なんと手抜いて中央の歩を成り捨てにいくという、極限の勝負手でした。伊藤匠二冠は▲8五銀と飛車を取りに行きますが、藤井聡太王位は△4七歩成から△4八歩打と電光石火の早業で、一気に先手玉へと迫ったのです。
実は局後の感想戦において、この瞬間に伊藤匠二冠が▲6八玉と踏み止まり、後手の攻めを自陣の厚みで受け止めていれば、先手に有望な変化が存在していたことが明かされました。しかし、実戦は伊藤匠二冠が73手目に▲6七歩打と受けに回り、藤井聡太王位の激しい攻めを呼び込む結果となったのです。この一瞬の攻防の選択が、超乱戦となった第6局の天秤を静かに、そして決定的に傾かせることとなりました。
優勢を確立したかに見えた藤井聡太王位でしたが、伊藤匠二冠の粘りも凄まじいものでした。伊藤匠二冠は89手目に▲4六玉と玉を中央へ泳がせ、上部脱出を目指します。先手玉が3七、2八と逃げ回るなか、互いに持ち時間を使い切り、局面は両者1分将棋の極限状態へと突入しました。
伊藤匠二冠は105手目▲4五馬という決死の馬切りから▲4三歩打と後手玉に迫り、一時はあやしい雲行きも見せます。藤井聡太王位も狭い玉席で△3一玉とギリギリの回避を続け、双方の玉が盤上を縦横無尽に逃げ惑う死闘となりました。
121手目、伊藤匠二冠が▲4四飛打とねじ込むと、藤井聡太王位は122手目に△2八角成と詰めろをかけます。伊藤匠二冠は▲4二金打から王手を連発して一逆転を狙いますが、藤井聡太王位の玉は128手目に△1二玉とぽとりと端へかわし、すべての詰みを正確に見切っていました。
伊藤匠二冠は▲2八飛から▲2六玉と逃げ道を求めますが、藤井聡太王位は△2七歩打、△2六歩打と絶妙な叩きを連打して飛車を引きずり出し、140手目に△3六金と王手飛車を決めました。
▲3六同飛と取れば△同竜で先手玉に受けがなく、後手玉には絶対詰みがない形です。
この手を見た伊藤匠二冠は静かに盤頭へ手を置き、投了を告げました。
140手。消費時間は両者ともに8時間ギリギリの7時間59分。終局時刻は19時42分でした。
この瞬間、七番勝負は通算4勝2敗となり、藤井聡太王位の防衛が決まりました。
意地と意地がぶつかり合った壮絶な乱戦を制した藤井聡太王位は、これで王位のタイトル7連覇を達成。通算タイトル獲得数を37期へと伸ばし、自身の持つ偉大な記録をまたひとつ塗り替えました。惜しくも敗れた伊藤匠二冠の果敢な挑戦と粘りもまた、今シリーズの熱量を極限まで高めた素晴らしい戦いぶりでした。
陣屋の夜に響いた投了の声とともに、今期の王位戦七番勝負は最高の熱気のなかで静かにその幕を閉じました。
藤井六冠は棋聖戦でも戦った服部慎一郎七段を迎えての竜王戦七番勝負に、伊藤二冠は広瀬九段と対戦中の王座戦へ、二人は別々のタイトル戦の防衛戦に挑むこととなります。
今後も二人の若き棋士の動向に目が離せません。
《タカダ》

舞台は数々の歴史的名勝負を見守ってきた神奈川県秦野市の老舗旅館「元湯 陣屋」です。
陣屋はカレーと陣屋事件が有名です。
面白いことに、伊藤匠二冠は2日に王座戦第1局が陣屋での対局で、一週間も間を置かずに再び陣屋での対局に挑みます。
藤井聡太王位がここで防衛を決めるのか、カド番を凌いだ挑戦者の伊藤匠二冠が最終第7局へ引き戻すのか。全国の将棋ファンが固唾をのんで見守るなか、先手番の伊藤匠二冠が黙想ののち▲2六歩と突き出すと、後手の藤井聡太王位もお茶を口にして静かに△8四歩と応じました。本シリーズの先手伊藤匠二冠の対局では相掛かりが本命視されていましたが、伊藤匠二冠は7手目に▲7七角と上がり、戦型は角換わりへと進みました。
序盤から激しい駆け引きが展開されました。両者ともに銀を前面へと繰り出す「相早繰り銀」の布陣を選択します。伊藤匠二冠が27手目に▲3五歩と先に仕掛けると、藤井聡太王位もすぐさま△8六歩からの継ぎ歩で反撃に出ました。
伊藤匠二冠は▲3四歩と拠点を打ち、藤井聡太王位は△2二銀と引いて陣形を整えます。伊藤匠二冠が43手目に▲4六角と好位置に据えると、藤井聡太王位も82分の長考の末、44手目に△4五角と打ち返して対抗しました。
対局が進行するにつれ、雨脚が強まる長崎ならぬ秦野の地で、盤上も不穏な気配を帯びていきます。長考の末55手目に伊藤匠二冠が▲6六銀と進出すると、藤井聡太王位は56手目に△2四歩と踏み込み、伊藤匠二冠が▲7五銀と歩を取った局面で、藤井聡太王位が59手目▲7六歩打のあと、60手目を封じ手として1日目を終えました。1日目の消費時間は先手の伊藤匠二冠が3時間0分、後手の藤井聡太王位が4時間24分となりました。
2日目、藤井聡太王位の封じ手△4五銀に対し、伊藤匠二冠は101分の大長考の末に▲4五同銀と応じ、▲2四角の王手から激しい戦いへ突入しました。
両者の読みが深く交錯し、勝負の明暗を分ける決定的局面が訪れたのは70手目でした。伊藤匠二冠が69手目に▲7四銀打と打ち込み、7五の銀を活用しようとした局面です。ここで藤井聡太王位が放った手が、控室のプロ棋士たちを「ひえ~!」と驚愕させました。
70手目、△4六歩。
先手からの銀の攻めを自陣の危機として受け止めるのではなく、なんと手抜いて中央の歩を成り捨てにいくという、極限の勝負手でした。伊藤匠二冠は▲8五銀と飛車を取りに行きますが、藤井聡太王位は△4七歩成から△4八歩打と電光石火の早業で、一気に先手玉へと迫ったのです。
実は局後の感想戦において、この瞬間に伊藤匠二冠が▲6八玉と踏み止まり、後手の攻めを自陣の厚みで受け止めていれば、先手に有望な変化が存在していたことが明かされました。しかし、実戦は伊藤匠二冠が73手目に▲6七歩打と受けに回り、藤井聡太王位の激しい攻めを呼び込む結果となったのです。この一瞬の攻防の選択が、超乱戦となった第6局の天秤を静かに、そして決定的に傾かせることとなりました。
優勢を確立したかに見えた藤井聡太王位でしたが、伊藤匠二冠の粘りも凄まじいものでした。伊藤匠二冠は89手目に▲4六玉と玉を中央へ泳がせ、上部脱出を目指します。先手玉が3七、2八と逃げ回るなか、互いに持ち時間を使い切り、局面は両者1分将棋の極限状態へと突入しました。
伊藤匠二冠は105手目▲4五馬という決死の馬切りから▲4三歩打と後手玉に迫り、一時はあやしい雲行きも見せます。藤井聡太王位も狭い玉席で△3一玉とギリギリの回避を続け、双方の玉が盤上を縦横無尽に逃げ惑う死闘となりました。
121手目、伊藤匠二冠が▲4四飛打とねじ込むと、藤井聡太王位は122手目に△2八角成と詰めろをかけます。伊藤匠二冠は▲4二金打から王手を連発して一逆転を狙いますが、藤井聡太王位の玉は128手目に△1二玉とぽとりと端へかわし、すべての詰みを正確に見切っていました。
伊藤匠二冠は▲2八飛から▲2六玉と逃げ道を求めますが、藤井聡太王位は△2七歩打、△2六歩打と絶妙な叩きを連打して飛車を引きずり出し、140手目に△3六金と王手飛車を決めました。
▲3六同飛と取れば△同竜で先手玉に受けがなく、後手玉には絶対詰みがない形です。
この手を見た伊藤匠二冠は静かに盤頭へ手を置き、投了を告げました。
140手。消費時間は両者ともに8時間ギリギリの7時間59分。終局時刻は19時42分でした。
この瞬間、七番勝負は通算4勝2敗となり、藤井聡太王位の防衛が決まりました。
意地と意地がぶつかり合った壮絶な乱戦を制した藤井聡太王位は、これで王位のタイトル7連覇を達成。通算タイトル獲得数を37期へと伸ばし、自身の持つ偉大な記録をまたひとつ塗り替えました。惜しくも敗れた伊藤匠二冠の果敢な挑戦と粘りもまた、今シリーズの熱量を極限まで高めた素晴らしい戦いぶりでした。
陣屋の夜に響いた投了の声とともに、今期の王位戦七番勝負は最高の熱気のなかで静かにその幕を閉じました。
藤井六冠は棋聖戦でも戦った服部慎一郎七段を迎えての竜王戦七番勝負に、伊藤二冠は広瀬九段と対戦中の王座戦へ、二人は別々のタイトル戦の防衛戦に挑むこととなります。
今後も二人の若き棋士の動向に目が離せません。
《タカダ》
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