残酷なほど美しき投了図
2025年07月20日
伊藤園お~いお茶杯第66期王位戦七番勝負第2局が、7月15・16日(火・水)に兵庫県神戸市いある有馬温泉旅館「中の坊瑞苑」にて行われました。

将棋ファンの間では「王位戦と言えば中の坊瑞苑」と言われるほどタイトル戦の、特に王位戦では歴史のある対局場として知られています。

江戸と明治が交わる1868年創業の歴史ある旅館で、1982年に第23期王位戦第2局で中の坊瑞苑が初めて対局場に選ばれました。
それから数々の名勝負が生まれた中の坊瑞苑は今期の王位戦で実に43回目の開催となります。
現在七冠を保持する藤井聡太王位が5連覇中で、既に永世王位の称号も獲得しています。
今シリーズも第1局を先勝しており6連覇に向けて好調な出だし。
方や挑戦者の永瀬九段は序盤では時間的優位に立つことが多いのですが、なかなか勝ち切るまでには至らず、対藤井戦では大きく負け越している状況です。
本局は後手番ですがどういった手で藤井王位に迫っていくのでしょうか。
藤井王位の初手は2六歩。先手番128局連続の出だし。生粋の居飛車党の藤井王位は特に居飛車戦法を隠す必要もないので、堂々と飛車先の歩を突くのが定石となっています。
そして角換わりに発展していく手が多くなっております。
例に習って本局も角換わりの進行でよく見る腰掛銀型でのねじり合いとなる駒組みです。
お互い早い段階で角を盤上に戻す。永瀬九段が飛車を4筋に振ると、藤井王位も決断良く中段に桂を跳ねていき深い研究が伺える。
正直、50手に達するここまでの進行で、私ごときでは両者の駒の動きの意図が全く理解できません。深い・・・深すぎて窒息しそうな圧をお互いから感じます。
淡々とした進行の中、徐々に藤井王位と永瀬九段の持ち時間の差が現れてきた。1日目の終盤に差し掛かったところで藤井王位残り4時間に対して永瀬九段は7時間の持ち時間を残している。
しかしそのわずか数手後、永瀬九段の手がピタッと止まった。
一時間、二時間・・・と時間を消費し考え続ける。
そして気がつけば封じ手時刻の18時を迎え大長考のまま永瀬九段が1日目の封じ手を行いました。
2日目の封じ手は大長考の末、出した一手は5筋の歩を伸ばす5五歩。
中段まで進出してきた銀を追い払う手でそれ自体は問題なかったが、その後の玉引きから既に研究範囲外の様子でジリジリと藤井王位との優劣の差が広がっていく。
藤井陣に圧力をかけていくも、絶妙な見切りで自玉の安全を確保しながら力戦模様を切り抜けていきます。
そして、いつからか周囲がざわつきます。「あれ?これ藤井玉詰まないんじゃね?」
永瀬九段は飛車で相手玉を直接王手しますが、もう逆転を考えているような感じではない。
藤井玉がスルスルと上へ上へと上がっていく。そして、金での王手を下がっていなすと、藤井玉の直上にぽっかり穴が空きここへ直進できる駒を打ち下ろせば永瀬九段の勝ちとなる。そして、駒台には歩が1枚。歩も一歩直進できる駒なのですが・・・

将棋には打ち歩詰めというルールが存在します。
打ち歩詰めとは、相手玉を駒台の歩で詰ますことを禁じたルール。既に江戸時代から明文化されており、打ち歩詰めは武士道精神に反する行為とみなされたことや、ゲームの面白さを損なうためなど、諸説あります。
打ち歩詰めの盤面が現れることはそう多くはありません。が、もしかしてですが、藤井王位は打ち歩詰めに誘導していたフシがあります。
記録係の秒読みが淡々と進む中、永瀬九段は頭を掻き天井を見上げ、そして盤上に視線を落とすと静かに投了の意思を示すべく頭を下げた。

藤井王位はいつからこの打ち歩詰めの盤面が見えていたのだろう、詰将棋の世界では打ち歩詰め回避の手順が用意されている作品もありますが、実践で即詰みを打ち歩詰めで逃れるなど、信じられない大局観です・・・。
永瀬九段も勝ちが無いと知りつつ、最終局面まで指してくれたことに見る将側からしたらありがたいことです。
最後は打ち歩詰めの一歩手前、美しくも残酷な投了図で終局しました。
これで藤井王位が2勝目を挙げ王位6連覇に一歩近づきました。
《タカダ》

将棋ファンの間では「王位戦と言えば中の坊瑞苑」と言われるほどタイトル戦の、特に王位戦では歴史のある対局場として知られています。

江戸と明治が交わる1868年創業の歴史ある旅館で、1982年に第23期王位戦第2局で中の坊瑞苑が初めて対局場に選ばれました。
それから数々の名勝負が生まれた中の坊瑞苑は今期の王位戦で実に43回目の開催となります。
現在七冠を保持する藤井聡太王位が5連覇中で、既に永世王位の称号も獲得しています。
今シリーズも第1局を先勝しており6連覇に向けて好調な出だし。
方や挑戦者の永瀬九段は序盤では時間的優位に立つことが多いのですが、なかなか勝ち切るまでには至らず、対藤井戦では大きく負け越している状況です。
本局は後手番ですがどういった手で藤井王位に迫っていくのでしょうか。
藤井王位の初手は2六歩。先手番128局連続の出だし。生粋の居飛車党の藤井王位は特に居飛車戦法を隠す必要もないので、堂々と飛車先の歩を突くのが定石となっています。
そして角換わりに発展していく手が多くなっております。
例に習って本局も角換わりの進行でよく見る腰掛銀型でのねじり合いとなる駒組みです。
お互い早い段階で角を盤上に戻す。永瀬九段が飛車を4筋に振ると、藤井王位も決断良く中段に桂を跳ねていき深い研究が伺える。
正直、50手に達するここまでの進行で、私ごときでは両者の駒の動きの意図が全く理解できません。深い・・・深すぎて窒息しそうな圧をお互いから感じます。
淡々とした進行の中、徐々に藤井王位と永瀬九段の持ち時間の差が現れてきた。1日目の終盤に差し掛かったところで藤井王位残り4時間に対して永瀬九段は7時間の持ち時間を残している。
しかしそのわずか数手後、永瀬九段の手がピタッと止まった。
一時間、二時間・・・と時間を消費し考え続ける。
そして気がつけば封じ手時刻の18時を迎え大長考のまま永瀬九段が1日目の封じ手を行いました。
2日目の封じ手は大長考の末、出した一手は5筋の歩を伸ばす5五歩。
中段まで進出してきた銀を追い払う手でそれ自体は問題なかったが、その後の玉引きから既に研究範囲外の様子でジリジリと藤井王位との優劣の差が広がっていく。
藤井陣に圧力をかけていくも、絶妙な見切りで自玉の安全を確保しながら力戦模様を切り抜けていきます。
そして、いつからか周囲がざわつきます。「あれ?これ藤井玉詰まないんじゃね?」
永瀬九段は飛車で相手玉を直接王手しますが、もう逆転を考えているような感じではない。
藤井玉がスルスルと上へ上へと上がっていく。そして、金での王手を下がっていなすと、藤井玉の直上にぽっかり穴が空きここへ直進できる駒を打ち下ろせば永瀬九段の勝ちとなる。そして、駒台には歩が1枚。歩も一歩直進できる駒なのですが・・・

将棋には打ち歩詰めというルールが存在します。
打ち歩詰めとは、相手玉を駒台の歩で詰ますことを禁じたルール。既に江戸時代から明文化されており、打ち歩詰めは武士道精神に反する行為とみなされたことや、ゲームの面白さを損なうためなど、諸説あります。
打ち歩詰めの盤面が現れることはそう多くはありません。が、もしかしてですが、藤井王位は打ち歩詰めに誘導していたフシがあります。
記録係の秒読みが淡々と進む中、永瀬九段は頭を掻き天井を見上げ、そして盤上に視線を落とすと静かに投了の意思を示すべく頭を下げた。

藤井王位はいつからこの打ち歩詰めの盤面が見えていたのだろう、詰将棋の世界では打ち歩詰め回避の手順が用意されている作品もありますが、実践で即詰みを打ち歩詰めで逃れるなど、信じられない大局観です・・・。
永瀬九段も勝ちが無いと知りつつ、最終局面まで指してくれたことに見る将側からしたらありがたいことです。
最後は打ち歩詰めの一歩手前、美しくも残酷な投了図で終局しました。
これで藤井王位が2勝目を挙げ王位6連覇に一歩近づきました。
《タカダ》
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